判例の概要
2025年、カルナータカ高等裁判所は、Alstom Transport India Limited事件において、海外親会社やグループ会社からインド子会社へ出向している駐在員への給与について、インド付加価値税(GST)を課すことはできないとの判断を示しました。
この判決は、2022年5月の最高裁判決(Northern Operating Systems事件)以降、多国籍企業(MNC)が直面してきた駐在員給与へのGST課税リスクを大幅に軽減することが期待されます。
背景
同社は2017年から2023年にかけて、海外グループ会社から技術職や管理職の駐在員をインド子会社に出向させていました。
駐在員はインド法人の給与台帳に登録され、インド法人と雇用契約を結び、社内規則や行動規範のもとで勤務し、給与はインド法人から直接支払われていました。
海外グループ会社からは、立替費用が一部精算されるのみであり、サービス報酬の請求などにより、海外法人が本件出向に関連して「利益」を確保していることはありませんでした。 しかし、インドのGST当局はこの出向を「海外法人による人材供給サービス」と位置づけ、RCM(リバースチャージ方式)によるGSTの納付を求めました。
裁判所の判断
裁判所は、駐在員がインド法人の管理下で勤務し、給与支払いもインド法人が行っている事実から、インド法人と出向者との関係は雇用関係に当たると判断し、インド税務当局の主張するような国外関連社の社員による「サービス提供」には当たらないと判断しました。
また、2024年6月のCBIC通達およびGST評議会第53回会合の勧告を引用し、請求書発行がなく、完全な仕入税額控除(ITC)が可能な場合、課税価額は「ゼロ」となると指摘しました。したがって、当局の課税処分は取り消されました。
実務への影響
この判決は、特に以下のような企業に影響を与えます。
- 海外グループから駐在員を受け入れているインド子会社
- 駐在員の給与支払いと雇用管理を現地法人で行っている企業
- RCM課税の可能性を懸念していた多国籍企業
出向関連の契約書(法人間で締結する「出向契約書」、出向者とインド法人で締結する「雇用契約書」、日本法人と出向者の間で確認する「アサインメントレター」など)を適切に整備し、給与支払いの実態をそれらの契約書と整合させることにより、GST課税のリスクを大きく低減することが可能となります。
注意点
今回の判断は企業に有利なものですが、最高裁に上告される可能性もあり、すべての事案に当てはまるわけではありません。
特に、2022年5月の最高裁判決のような、給与全額が海外法人により支払われている場合や適切でない出向契約が存在する場合などは依然としてGST課税リスクが高いと言えます。雇用実態を示し、給与支給方法などとも整合性の取れた当事者間の契約書などを整備した上で、税務当局への説明に備えることが極めて重要です。
まとめ
この判決は、「形式」よりも「実質」を重視する司法判断の流れが強まりつつあり、適切な契約と管理体制、業務フローがあれば、税務リスクの管理が可能であることを示しています。
AsiaWise会計事務所では、インド子会社・拠点に加えて、日本に関する税務アドバイス経験を豊富に有するメンバーが、インド、日本両国の規制や商習慣を踏まえた実践的な支援を提供し、企業のリスク低減とガバナンス強化をサポートします。